ちゃんとしたい

弾性のあるゲロ

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最悪なことがあった。

 

ガラガラの各停に乗って本を読んでいたら、若い男性がピンポイントで私の隣に座ってきた。しかも、女性なら感覚的に伝わるかもしれないのだが、間合いがアウトだった。これは物理的な距離の問題ではなくて、言ってしまえば直感、親和性、呼吸の問題。

すぐ立ち上がって移動した。もし恨みを買ったとしてもちょうどあと一駅で降りる予定だったから大丈夫だと判断してそうした。

その男性は私が座っていた端っこに詰めていた。なんだ、平気そう!と思いつつちょっと観察していると、何駅か前で隣の車両に移動していた男の子が仲間を引き連れて走って戻ってきて、その人の隣にぴったりくっついて座り、おしゃべりし始めた。明らかに名門の私立小学校の制服を着ている6歳くらいの男の子たち。うえ〜先生だったの?なのに他人とその距離感でいちゃうのかい?とムッとした。が、なんだか様子が変。男の子たちが大爆笑しているのに、先生(仮)は何も話さない。突然彼らは笑いながら立ち上がり、車内をぐるぐる走り出す。先生も追いかけ回すように立ち上がるのだが、話さないし、歩くだけ。それを見てさらに笑う男の子たち。

あれ、あの男性は先生じゃないな、むしろ上下関係は逆。じゃあ彼が危ない人だという私の勘がやっぱり当たっているのかも、でもだとしたらなんで男の子たちは無邪気に彼を馬鹿にしているの…?刺されない?殺されない?ものすごく怖くなってくる。

焦っていたから、男の子たちがずっと大きな声で何かを連呼していることに意識が向いたのは最寄駅に着いて下車する寸前だった。私が恐れていた男性をちゃんとこの目で見たのもそのタイミングだった。あ、まって、赤と白のヘルプマークを付けている。まって、ねえ、少年たち、「またどこかで会えるといいね!(笑)ね!ね!またどこかで会えるといいね!(笑)ばいばーい!ばいばーい!(笑)」ドアが開くと一斉に走り出す「やばい逃げろ逃げろ逃げろー!(笑)」ふつふつとヘドロが湧き上がり、名門小学校のボンボンたちの逃走経路を塞ぎながら自分も下車した。もう全部わかった気がした、あの男の子たちは、ヘルプマークを付けた男性がいつどの駅でどの号車から乗車してくるかきっと知っている。そのタイミングに合わせてこの号車に来て、捕まえるように彼にちょっかいをかける。いや、虐める。彼が声を出さないのを利用して、存分に罵倒する。それで一駅分楽しんだら、笑いながら逃げ去る。そしてまた偶然のふりして隣の車両から登場する、それを、それを何度も繰り返す、365日。

ぐわあときて、頭を掻きむしり、あー!と少し声を出しちゃった。ホームをとりあえず早歩きで端っこまで歩いた。たった一駅、多分一分にも満たないような一瞬の出来事だった。一駅だから出来るんだろうな、二駅だったら反撃されるかもだし逃げられないし飽きちゃうし。制服って何なんだろうね名門って何なんだろうね、この間小学校受験界隈というのをツイッターで見つけて調べたばかり。夫のキラキラした経歴を盾に教育ママがぶいぶい言わせる、金とコネの戦いだということを知ったばかり。でも私だって瞬時に逃げたよ。クソガキたちの制服を破り捨てたい。あの男の子たちは金とコネに恵まれて、そう親ガチャ大成功で、慶應にでも行って、これからも色んな人を踏み躙りながら、でも悪意の自覚もお洒落にこなして、世界を真っ暗に染めていくんだろうな。結婚式はするんだろうな。アホ面で嘘の言葉並べて。プロミシング・ヤング・ウーマンの彼。改札を出た瞬間からこれを書き続けている、私は今本当に、泣いている。